私たちの想い

漆の葉っぱ

漆はウルシの木の樹液。
樹齢10~15年の成木から
わずか牛乳瓶1本分ほどしか採取できない貴重な自然の恵み。

木を植え、育て、樹液をいただく。
この循環を壊さなければ、漆が枯渇することはない。

漆掻き職人から樹液を受け取り、精製し、
漆芸家や職人の元へ届ける。
この仕事を通して感じることを、
たくさんの人に伝えたい。

初代堤浅吉の白黒写真

「漆を一滴も無駄にしてはならない」

初代・淺吉が口癖のように話していたこの言葉は、漆という素材への敬意、漆のおかげで生活できていることへの感謝の気持ちの表れである。創業114年を迎えた今も、社訓として受け継がれている。

かつて私たち漆屋は、品質の良い漆を安定供給することだけに注力してきた。

しかし、時代は変わり、現代社会において漆は衰退の一途を辿っている。

漆や工芸が私たちの生活とともにあった頃、漆器を作る職人さんは仕事に追われていた。各工房の漆を切らさないように、自転車に桶を山積みにして配達に回る日々。当時は、先々のことを考える必要も、そんな余裕もなかった。その後起こった、戦後の高度経済成長、バブル崩壊、そしてIT革命。

安く、早く、便利なモノが求められるようになり、漆や工芸は日常生活から姿を消していった。大量生産、大量消費、使い捨ては当たり前。漆のあり方とは真逆の価値観が日常となった現代においては、10年先の未来が想像できなくなった。昔と同じように注文を待っているだけでは、商いを続けていけないことは目に見えていた。

50年の間漆が500tから30tまで減っていく図

私たちが生まれた約40年前から現在にかけても、漆の国内需要は恐ろしいスピードで減少している。漆屋は、山と使い手の間で仕事をする。漆の使用量が減ったことで、山々に育つ漆の木や漆掻き職人、彼らが使う道具までもが窮地に立たされている。テクノロジーが急速に進歩する裏側で、地球は傷つき、漆や伝統工芸の衰退が進んでいる。

このままでは漆の文化が消えてしまう

今、漆屋である自分たちにできることは何か?まずは、伝えることから始めようと思った。
漆の素材としての魅力を。
悲しい現状を。

私たちは日々漆を精製する中で、
艶めかしく変化する漆の美しさや素材としての面白さに引き込まれている。

子供達がうるしの椀から食べている

水分を持ったまま硬化する漆独特の塗膜は、
人の肌に馴染み、使い込むほど味わい深い艶に育つ。
愛着が湧き、大切に使う。
使い込んで傷んでも、修復し、
世代を超えて使い繋ぐ。

ご先祖様を敬う。
手を合わせる。
素材を五感で感じる。
昔は当たり前だった日本人らしさ。

受け身でいても何も変わらない。
自分たちも歩みを進めなければ。
2016年「うるしのいっぽ」をスタートさせた。

幼稚園の子供達がうるしの椀を持っているグループ写真

おかげさまですごい反響だった。
うれしかった。
メディアにも取り上げられ、講演依頼なども増えた。
でも、そのほとんどが漆や工芸関係の人からの反応だと、ある時気づいた。
その輪の外にいる漆に触れたことのない人たちに、漆のことを知ってほしい。

国も世代も超えて、もっと多くの人に漆の魅力を伝えたい

2019年、漆の新しい価値観や可能性を発信するプロジェクト「BEYOND TRADITION」を立ち上げた。

「高級で扱いにくい」「特別なもの」といった漆のイメージを変えたかった。ジーンズや革製品のように、使い込むことで生まれる味わいを楽しんでほしい。若者にも響くかたちで、漆の魅力を伝えようと考えた。漆は、人や地球に優しいサスティナブルな自然素材だ。漆を知ることで、環境問題にも関心を持ってもらいたい。

このような思いを語ると、日本だけでなく世界の人々が共感してくれた。私たちは少しずつ、漆の新しい可能性を実感できるようになっていった。続けていくうちに、協力してくれる仲間も増えた。

循環型のモノづくりを実現し、工芸の可能性を広げたい

いま私たちは、工芸という大きなものに向き合っている。
漆を軸に、循環型のモノづくりの拠点をつくり、さまざまな工芸素材の魅力を伝えたい。
10年後、15年後を想像して木を植え、育て、つくる。
持続可能な森づくりとモノづくりを地域や行政、教育機関や企業と一緒に実現したい。
そのための活動を「工藝の森」と名づけ、大きな目標に向かって、歩み出した。

漆文化を、そしてきれいな地球を、
次世代の子どもたちに繋いでいくために